環境リスク工学

様々な環境汚染物質がもたらす環境リスクの解析と評価を目指して

科学技術の進歩とともに人工化学物質、重金属、放射性物質等、様々な物質が環境中に排出され、長期的かつ広範囲に環境汚染を引き起こし、環境リスク(人の健康、生活、経済・社会システム、生態系への悪影響)がもたらされています。環境リスクを低減するための対策を立てるためには、様々な有害物質が、どのように、どれだけの悪影響をひき起こすのかを定量的に知る必要があります。 当研究室では、都市レベルから地球規模での環境中に放出される様々な有害化学物質による環境汚染について、フィールド調査よる実データの収集、実験、数値シミュレーションを組み合わせて、その環境中(大気、水、土壌)の動態、人間への移行経路と曝露量、健康へのリスクを解析して、環境リスクを評価しています。さらに、工学的なアプローチに加え、社会科学的なアプローチも取り入れて、環境リスク低減のためにはどのような手段が効果的であるかを明らかにしようとしています。

教員

米田 稔 ( Minoru YONEDA )

yoneda220614.jpg教授(工学研究科)

研究テーマ

一般生活環境中における、放射性物質を含む各種有害物質の動態解明と曝露量評価をおこない、一般の人々がこれらの物質から受けるリスクを評価している。また放射性セシウムで汚染された森林での線量低減方法の研究や、空気中微粒子の成分の測定方法などの研究も行っている。

連絡先

桂キャンパス Cクラスター C1-3号棟 466号室
TEL: 075-383-3355
FAX: 075-383-3358
E-mail: yoneda@risk.env.kyoto-u.ac.jp

島田 洋子 ( Yoko SHIMADA )

准教授(工学研究科)Shimada.jpg

研究テーマ

環境放射能や有害物質などの環境リスクへの取り組みとして、個人の生活レベルでの活動がどれだけ環境に負荷をかけているのか、またこれらの負荷を軽減するにはどのような手段が効果的であるかを、モデル化を通して定量的に解決して行く。地球規模から都市レベルにおける環境問題の解決のため、行政などによる環境政策や中長期的計画を策定する上で、有用な知見を提供する。

連絡先

桂キャンパス Cクラスター C1-3号棟 464号室
TEL: 075-383-3357
FAX: 075-383-3358
E-mail: shimada@risk.env.kyoto-u.ac.jp

五味 良太 ( Ryota GOMI )

助教(工学研究科)

研究テーマ

  • 環境中の薬剤耐性菌のゲノム解析
  • 環境水中の大腸菌の起源追跡

連絡先

桂キャンパス Cクラスター C1-3号棟 466号室
TEL: 075-383-3354
FAX: 075-383-3358
E-mail: gomi@risk.env.kyoto-u.ac.jp

研究テーマ・開発紹介

福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質によるリスク評価と対策

2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質が環境中に拡散し被災地の土壌や森林を汚染し、現在も住民が帰還できていない地域があります。汚染地域における放射性物質の環境中動態、住民の被曝評価、今後の森林の除染に関して以下のテーマで研究を行っています。

  • 被災地住民のライフスタイルの違いを考慮した総合的健康リスク評価

福島第一原発事故被災地域への帰還では、公衆被ばく線量限度1 mSv/年より被ばく量が多くなるため帰還をためらう人が多く、生涯被ばくリスクを住民のライフスタイルの多様性を考慮して定量的に提示することが必要とされています。また、避難生活や被ばくを避けるための生活行動は生活習慣病やストレス等の健康影響を及ぼします。本研究では、性・年齢等によって分類された住民集団の多様性と生活時間や住居形態などのライフスタイルの違いを考慮した被ばく量評価手法開発に取り組んでいます。

  • 森林域での放射性物質の動態解析と森林最適除染評価手法の開発

放射性物質によって汚染された地域での環境再生、復興を迅速に進めるためには、森林除染による空間線量低減をはかる必要があります。本研究では、森林土壌や森林生態系における放射性物質の動態を解析し、森林に囲まれた平地における森林からの空間線量と森林除染による空間線量率の低減を定量的に計算できるモデルを構築してシミュレーションを実施し、森林での最適除染評価手法の提案を目指しています。

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図1. 森林土壌の採取

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図2.除染レベルに対応した10年後のCs-137の地中分布のシミュレーション結果

様々な環境汚染のリスク評価

多種多様な微量環境汚染物質による環境汚染のリスク評価においては、人間活動と環境汚染との関わりを定量的に把握することが重要です。本研究室では、ライフスタイルや社会経済活動を考慮した環境汚染物質の排出源解析によるリスク評価や、従来の方法では把握できなかった汚染現象や新たな汚染物質の環境中での存在形態や汚染の状況を、遺伝子レベルでの解析手法などの新しい研究アプローチも使うことで、把握しようとしています。

以下に、遺伝子レベルでの解析手法を使った研究を紹介します。

  • 環境中に存在する薬剤耐性菌の遺伝子レベルでの解析  

近年、抗生物質が効かない細菌(薬剤耐性菌)の増加が、世界的な問題となっています。薬剤耐性菌による死亡者数は、将来的には癌による死亡者数を上回るという試算もされています。薬剤耐性菌は、医療に関わる場所での問題と捉えられがちですが、実は、河川、湖、土壌などの自然環境中でもその存在が確認されていて、環境リスクが懸念されます。そこで、私たちは、自然環境中の薬剤耐性菌の存在や動態について、遺伝子レベルでの解析を行うことにより把握しようとしています。

  • 水環境中の大腸菌の起源解析

大腸菌は、人や動物の糞便汚染状況を把握するための水質基準項目の1つです。大腸菌の濃度を測定することによって、測定場所の水がどれだけ汚染されているかはわかりますが、その起源 (汚染源)の情報を得ることはできません。環境水中の大腸菌の中には人に有害なもの(病原性大腸菌)が存在することから、環境中での動態を把握して環境リスク評価を行う必要があります。そのためには、まず、下水処理や畜産業などの人間活動由来なのか野生動物由来なのかという起源情報を把握することが重要です。本研究では、DNA配列解析といった分子生物学的な手法を用いることで大腸菌の水質汚染起源を特定する方法を開発しています。

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図3.環境汚染リスクモデルの作成
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図4.薬剤耐性菌の系統解析

研究室ウェブサイト

 http://risk.env.kyoto-u.ac.jp/