理念・教育方針

健康,社会,そして未来

科学の進歩は,人類に物質面での繁栄をもたらしてきた。しかしながら,この繁栄にともなって様々な環境上の問題が引き起こされ,人の健康や生命が脅かされていることも事実である。さらに,気候変動等の地球環境問題に代表されるように,いまや人類の発展は地球規模での限界に直面している。地球上には,高齢化・価値観の多様化に困惑する社会が存在する一方で,人口爆発や人間安全保障の未充足に苦しむ社会が依然存在する。こうした地域固有の環境問題を克服し,新たな持続可能な社会のあり方を統合的に探求することが今求められている。

都市環境工学専攻は,上記の要請に応えるべく,学内の関連部局・専攻とも連携し,個別の生活空間から地域及び地球規模に至る幅広い環境場を対象として,以下の目的を念頭に教育・研究を推進する。

顕在化/潜在化する地域環境問題の解決

人類の活動は,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,廃棄物問題,生態系の破壊等,都市・自然環境の劣化を招いており,長期的・広域的な視野に立って,これらの直面する問題の解決に当たる必要がある。都市環境工学専攻では,環境問題の発生を把握・予測し,それらを実際に解決する技術を開発し,最も効果的かつ社会に受容される総合的な解決策を立案する。

健康を支援する環境の確保

現代生活を支える莫大な数の化学物質や非意図的に生産された物質などの中には,人々の健康に悪影響を及ぼす様々な化学的・物理学的・生物学的有害因子が存在している。これらの環境中での挙動や,人への影響機序の解明を行うとともに,健康に及ぼすリスクやリスクの集中を評価・管理する手法を開発する。これらの成果を総合化し,健康リスク因子からの被害を未然に防止しつつ,人々が健康に安心して生活できる環境の確保を行う。

持続可能な地球環境・地域環境の創成

人間・環境系は物質的循環を伴いながら一つのシステムを構成している。都市環境工学専攻では,長期的及び広域的視点から循環型・自然共生型・市民参加型社会の創造に寄与する技術とシステムを構築する。環境に関わる地球規模での諸問題についても,その計測手法の開発,それらの間に存在するメカニズムのモデル化や,定量的な検討,将来推計などを行うとともに,対策立案や政策提言等を通じて生態系も含めた人間生存の場を総合的にデザインする。

新しい環境科学の構築

環境問題は,既存科学の限界が,我々の日常生活に露呈した結果ともいえる。すなわち,環境問題の解決には,既存科学や工学の枠組みを越えた新しい学問体系が必要である。都市環境工学専攻では,工学技術を基盤に,アジア地域を中心とした国際的研究フィールドを含む,環境問題の現場を重視した教育・研究活動と,医学・社会学・経済学から倫理学に及ぶ学際的なアプローチを通じて,人々の健康と安心を保証しつつ持続可能社会を支える総合的な学問体系の構築を目指す。